「涼を装う」『日本文化を生きる』Vol.7 代表 木下勝博




7月も今日で終わり、いよいよ明日から8月を迎えます。鎌倉でもうだるような厳しい暑さが続いており、まとわりつくような熱気に、思わずため息をついてしまう日も少なくありません。

現代の私たちは、この暑さをしのぐためにエアコンの温度を下げ、部屋を閉め切ることで快適さを手に入れています。スイッチ一つで瞬時に涼を得られるのは確かに便利であり、猛暑を乗り切るためには不可欠なものです。しかし、そうして暑さを完全に「排除」する生活に慣れきってしまうと、私たちが本来持っていた季節を味わうセンサーが、少し鈍ってしまうような気もいたします。

[上質な洗える着物 カラフル色無地]


かつての日本では、厳しい暑さを少しでも和らげようと、五感を総動員して「涼」を作り出していました。軒先に吊るした風鈴の高く澄んだ音色。夕暮れ時の打ち水がもたらす、土の匂いと微かに冷たい風。あるいは、葦戸(よしど)や御簾(みす)へのしつらえの変更、ガラスの器に盛られた冷菓の美しさ。これらは、物理的な室温を劇的に下げるものではありませんが、視覚や聴覚といった感覚を通して、私たちの心に静かな「涼しさ」を届けてくれます。

[小菱紋紗 袋帯 銀彩]


着物の世界においても、この時期は「涼を装う」ための知恵が最も美しく花開く季節です。
7月、8月の盛夏には、「絽(ろ)」や「紗(しゃ)」と呼ばれる透け感のある絹織物や、シャリッとした肌触りの上質な麻の着物を身に纏います。これらは風通しが良く、着ている本人が涼しいのはもちろんですが、実はそれ以上に大切な意味が込められています。それは、「目にする人に涼しさを感じてもらう」ということです。

[上質な洗える着物 カラフル色無地]

風をはらむ透け感のある素材や、藍色や白といった涼やかな色合い、水辺や秋草を描いた柄行(がらゆき)は、すれ違う人や同席する方への「おもてなし」でもあります。自分が快適であることだけで完結するのではなく、自分の装いが周囲の風景の一部となり、誰かに涼しげな風情をお裾分けする。この「他者を思いやる装い」こそが、周囲との調和を大切にしてきた日本文化の、非常に誇るべき美意識ではないでしょうか。

暑さをただ忌み嫌い、人工的な冷気の中に閉じこもるのではなく、時には五感を開いて「涼」を演出し、その風情を分かち合う。それは、効率や合理性ばかりが求められる現代において、心に一陣の涼風を吹き込むような、豊かな余白の時間となるはずです。

これからしばらくは、1年で最も暑さの厳しい時期が続きます。皆さまもぜひ、効率だけではない日本ならではの「涼を装う」知恵を暮らしに取り入れ、この夏を健やかに、そして美しくお過ごしくださいませ。

【バックナンバー】

「節目で立ち止まる」『日本文化を生きる』Vol.6
「雨を愉しむ」『日本文化を生きる』Vol.5
「伝統とは?」『日本文化を生きる』Vol.4 
「季節と生きる」『日本文化を生きる』Vol.3
「生活の中の和」『日本文化を生きる』Vol.2
「初めての体験」『日本文化を生きる』Vol.1