「雨を愉しむ」『日本文化を生きる』Vol.5 代表 木下勝博

木下着物研究所 代表 の木下勝博です。
今回は「雨を愉しむ」というテーマを取り上げたいと思います。


木々の緑が一段と色濃くなり、鎌倉を吹き抜ける風にも、少しずつ夏の湿り気が混じるようになってきました。5月も終わりに近づき、まもなく本格的な梅雨の季節がやってきます。

以前のコラムで、着物で生活をしていると天候や気温に敏感になる、というお話をしました。
特に雨の日は、正絹(しょうけん)の着物を濡らさないようにと事前に天気予報を気にすることが増えますし、お出かけの際の雨コートや草履の準備など、何かと気を揉むことが多いのも事実です。

現代の忙しい日常や効率を重視する生活の中では、どうしても「雨=移動がおっくうになるもの」「煩わしいもの」として、ネガティブに捉えられがちです。濡れることや予定が狂うことを嫌い、私たちはつい、雨を生活の邪魔者として扱ってしまいます。

しかし、鎌倉の古民家で自然に近い暮らしを重ね、和の文化に触れる時間を増やしていくうちに、私の中で雨の日の捉え方が少しずつ変わってきていることに気がつきました。

しとしとと降る雨の日は、家の中で静かに過ごす時間がなんとも言えず豊かに感じられます。軒先から落ちる雨音にただ耳を澄ませていると、せわしなく動いていた心が自然と凪いでいくのがわかります。

また、庭や畑の面倒をみるようになり、草木にとっては、まさに恵みの雨。晴れ間が続き雨が降らない日が続くと、雨の日が愛おしくなるほどです。
実際に雨に打たれ、水分をたっぷりと含んだ青葉はひときわ生命力を放ち、しっとりとした空気が風景全体の輪郭を柔らかく、美しく包み込んでくれます。

自然を人間の都合でコントロールしようとするのではなく、自然がもたらす変化をそのまま受け入れ、その中に美しさや風情を見出す。これは日本人が古くから培ってきた感性のひとつだと思います。

「晴耕雨読(せいこううどく)」という言葉があります。

文字通りでは、晴れた日には田畑をたがやし、雨の日には家で読書するという意味です。現代では悠々自適の生活のことを指すことが多いようですが、私自身は"晴耕雨電"で春秋は庭と畑仕事で追われています(苦笑)。

現代の私たちは、どんな天候の日でも毎日を同じペース、同じ効率で進めようとしがちですが、時には自然のリズムに身を委ね、歩みを緩めてみるのも良いものです。

これから迎える梅雨の季節。休日は少しだけ立ち止まって雨の音や匂いに感覚を研ぎ澄まし、雨の日ならではの穏やかな時間を愉しんでみてはいかがでしょうか。