なかなか普段に着物を着る機会がない...
着物を着るという機会は、やはり格式のある式典などのフォーマルの場面や、お茶会やちょっとしたパーティーというようなお呼ばれが多いという方も多いことと思います。
きちんとしてお席で着るわけですから、せっかくであれば一生大事にしたい手仕事の着物を纏いたい・・そう思ったことありませんか?
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常日頃、着物を生活の延長線上に提案する私どもとしては、上質だけれど使い勝手の良い着物を手が届きやすい価格でお届けすることを意識しています。
一方で、昨今、日本全国の着物産地の高齢化は著しく、京友禅も例外ではありません。日本の頂点とも言えるモノづくりの継承も厳しい状況を迎えていることも事実です。そんな中で本物の技術によって作られた着物に少しでも多くの方に触れて頂きたい、という想いから企画しました。
今回ご紹介する紅衣オリジナルの「訪問着 七宝霞紋」は、皇室の着物を作られている京都の職人さんたちの手により染められた逸品です。この訪問着は日本でトップクラスの技術で染められたお品です。
京都の染め物の世界は分業化されているため、一つの着物を作るために多くの職人さん方の手を経て仕上がります。おひとりひとりは、いわゆる友禅作家として呉服店さんなどで顔を出すことはなく、裏方として活躍する生粋の職人さんたちです。皇室をはじめ名だたる方々の着物を染められています。
京都のモノづくりでは、「悉皆(しっかい=プロデューサーのような役割)」という方がが商品のデザイン、方向性(ニュアンス)を決めて、それぞれの工程の職人さんにお願いして段階段階で仕事を確認しながら、1枚の着物を仕上げてゆくという分業制です。
今回、私どもの要望をこの方にお伝えして、コミュニケーションを取りながら形にしてゆきます。個性のあるそれぞれの職人さんをまとめながら、クライアントである私どもの要望を形にするのがこの方の役割です。
私どもも様々な産地の様々な職人さんと共にモノづくりをしますが、時として私ども自身がこの「悉皆」に近い役割を担うこともありますが、京都の場合は、むしろこの部分はお任せする方がスムーズに行くことが多いのが、歴史ある京都の特徴かも知れません。
さて、フォーマルの着物と言いますと、留袖や振袖は少し脇に置いておきまして、着物ユーザーの方が良くお召しになるのが、訪問着と付下(つけさげ)になります。
訪問着は、留袖や振袖の次にあらたまった準礼装。
付下(つけさげ)とは、訪問着の略装になります。
歴史的な部分を紐解きますと、訪問着は大正時代に百貨店が提案し、戦後は礼装着物のスタンダードになりました。
どちらも未婚、既婚を問わない社交着で着用シーンもほぼ共通です。専門的には制作工程による違いにより訪問着と付下と分かれますが、とても分かりやすく言えば、全体的な模様が多い訪問着と比較して、付下は模様が少なく控えめな印象になるものが多いのが一般的です。
現代では、洋装も和装も礼装のカジュアル化が進んでいるように見受けられます。
過度に華美な印象の着物を敬遠する向きもあり、昨今の訪問着の柄付もグッとシンプルになりました。
さまざまな時代背景の中、わたくしどもは、幅広い着用シーンを想定し、季節を問わない好みの文様で、質が高く「安心の一枚」を自信を持ってお召しいただけることを一番に考えて、この訪問着を商品開発を致しました。
この着物の良いと思っている点は、つまり開発のポイントは以下の通りです。
①間違いのない安心感のある柄ゆき
②シンプルで飽きのこない意匠
③際立つ仕事の美しさ
④帯を変える事で着用シーンを変える事ができる
この4つに集約されます。
①間違いのない安心感のある柄ゆき
フォーマルの着物は安心感が必要と申し上げましたが、
間違いのない安心感のある柄ゆき
というポイントからお話ししましょう。
この着物のメインの柄は、霞。
複数の霞の中に、濃淡があり、濃い霞の中に七宝、色紙文様、金ちらしが霞と共に風にたなびいているような柄ゆき。
今回我々はこの着物の名称を【七宝霞紋】と名付けました。
霞は吉祥文様の一つです。
自然に繰り返し起こる現象でもあり、永遠を表していたり、神聖なものであるとされているので、縁起の良い文様というになります。
つまりフォーマルのシーンにぴったりの柄ゆきです。
霞の中に入っている柄行きの七宝も四方に限りなく伸び、縁起の良い吉祥文様の一つです。
色紙文様も器物文様の一つで、公家文化を象徴させる上品な華やかさがあります。
柄ゆきは好みがもちろんあると思いますが、フォーマルの着物である場合は、フォーマルシーンに沿った柄ゆきであることも重要です。
今回は、シンプルで都会的な雰囲気を持ちつつ、安心の1枚を目指して作られておりますので、フォーマルシーンに寄り添う柄で作成しています。
②シンプルで飽きのこない意匠
文様につきましては、先に述べました通りですが、次はとてもシンプルな意匠(柄ゆき)についてご説明します。
シンプルとは、もちろん文様も関係ありますが、柄の分量に左右されるかと。
今回、このフォーマル着物が1枚あればもう大丈夫という安心感があり、様々お召しいただける事を目標としましたので、先にも後にもフォーマルの装いがこちら1枚ということもあり得ると想定しています。
少ない枚数で幅広く着回そうと思ったときには最終的にシンプルなものが一番です。飽きずに今も何年後も手にとって袖を通していただくために、シンプルで飽きのこない意匠を目指しました。
シンプルというのは、実はとても難しいものです。
柄のバランスの良し悪し、そして仕事の美しさが如実に表れてしまう、怖さもあるのです。
このシンプルのさじ加減、仕事で言いますと引き算の仕事、我々はその際の見極めに神経を集中させます。
商品化にあたっては、何度も京都に通い複数の職人さんと打ち合わせを重ねて、引き算の仕事のニュアンス、しかしながらきちんと最上級の上品さ、そして安心してフォーマルスタイルをお任せできるような、そんなきちんとした印象を伝えたいと打ち合わせを進めて参りました。
職人さんによる長年の経験と悉皆さんのコーディネート力により、なんとも言えないよき塩梅で仕上がりました。
③際立つ仕事の美しさ
今回お願いしている職人さんは、第一線で大活躍されている方々ばかり。お人によっては50年以上お仕事をされておられる職人さんもおられます。
シンプルなものは、何か物足りなさ、間延びしてしまう感じ、寂しい柄ゆきと感じさせる感覚と常に背中合せです。シンプルで美しいものと、何か物足りないとか、間延びしてしまうものの差は、細部の仕事の美しさです。
霞の暈しの美しさ、風になたびく生命を感じさせるようなニュアンス、
ぱっと見刺繍とは見えないほどの綺麗さ、そしてボリューム感のある丁寧な刺繍の仕事、
シャープさもきちんと表現されている、そしてセンスが問われる金彩銀彩加工、
どの仕事も相まって、シンプルで美しく気品ある着物を作り上げてくれています。
丁寧に仕事を重ねています。
霞をご覧いただけますでしょうか?
ただの霞暈しではありません。強い色合いの霞暈しの上下は白く霞ませています。
霞がポン!と一つ二つ入るだけでは違和感を感じさせますが、上下を白く霞ませることにより、より情感が伝わり、文様としてシンプルながら重みが出ます。
また霞の先端も、柔らかいフォルムのもの、シャープなフォルムのものが用いられています。
表現の多彩さもシンプルながら奥行きを与えてくれるポイントです。
シンプルであることこそがこだわりです。
友禅の線のニュアンスで印象が変わります。
暈しの色や暈し足の表現の方向が少し変わると、印象が変わります。
金彩銀彩加工が少しでもボテっとしていると、都会的ではなく印象が変わります。
刺繍が狂いのない繊細なものでないと印象が変わります。
この際立つ仕事の美しさがないと、削ぎ落とした上質でシンプルな着物というのは存在しません。つまり、ここまでシンプルにできるのは、各分野で最高級の技術を持つベテランの職人さんの技術あってこその着物です。
シンプルな着物って少ない理由はここにあるのです。
「良いものほど引き算をすることでよさが引き立つ」と私共は考えております。
引き算ができる仕事というのは、技術力、そしてセンス、その両方を兼ね備えていないと出来ることではないのです。
④帯を変える事で着用シーンを変える事ができる
とっておきのフォーマルの着物を一枚欲しいと思っておられる方も多い事でしょう。
その方にとっての1枚は、一生に一枚の着物かもしれません。
その場合、1枚で様々なシーンを着分ける必要があるのですが、シンプルな着物だからこそ、帯によって着用シーンを変える事ができます。
さっぱりとしたシンプルな袋帯でパーティーシーンに、
古典文様の袋帯でお友達の茶名披露のお茶会に、
どっしりと重みのある袋帯で結婚式などの式典ごとのお祝いのシーンに、
と、帯を変化させる事によって、いろいろな場面で袖を通していただけます。
フォーマルシーンにおいて、安心感はとても重要なもの。
伝統的な文様に、美しいぼかしの色目、刺繍がシンプルながらも華やかさもあり、フォマルシーンに欲しい、気品あふれる華やかさをきちんとプラスしてくれています。
シンプルなので帯によって、着用シーンを変える事ができるのも魅力的。
1枚は安心できるフォーマルの着物が欲しいと考えておられる方のご要望にマッチする着物を作りました。
ご自身で選ぶ袋帯に合うのは当然のことと思います。
ご家族から譲っていただく、かなり重めの袋帯などにもしっかりコーディネートできる訪問着です。
シンプルというポイントだけですと、重めの帯に負けるかもしれませんが、この訪問着は引き算仕事をしつつ、気品あふれる華やかさも持ち合わせているので、重めの帯にも負けない強さもございます。
一流のプロデューサー的役割の方、一流の職人さんにお願いしているので、決してお安いものではありませんが、値段に対しての価値は十分にある着物です。
いつか心から安心できるフォーマルの着物を欲しいと思っていた方に袖を通していただきたいです。
是非ご検討いただけますと幸いです。
最後にこの訪問着を作ってゆく工程を簡単にお伝えします。
生地に地入れを行う(前加工/下処理のような工程)
手書きで色を挿してゆく(友禅)
色を定着させる為に蒸す(蒸し)
最後の地色を染めるので、先に染めた部分を糊で伏せてゆく(糊伏せ)
地色を染める(地染め)
訪問着はこの後から、刺繍や、金彩銀彩加工を行います。
刺繍の職人さん、金彩銀彩加工の職人さんは別々なので、それぞれの工程を経て、最終的に訪問着という1枚の着物が出来上がります。
工程をお伝えするだけでも、こんなに手が加えられて作られるというのが伝わりますでしょうか。
色々と難しいことをお伝えしておりますが、こちらの訪問着の価格の理由を少しはご理解頂けましたでしょうか。難しいことは理解できなくてもいいのです!あ、丁寧に作られているのね、素敵なはずだわ!!と思っていただけたら嬉しいです。
◾️色
青藤色が地色に。
中濃度の透明感のある色合いですので、体型に関わらず濃い色の帯でも薄い色の帯でもコーディネート可能です。色合わせによっても雰囲気が変わる色合いでもあります。
◾️刺繍、金彩銀彩
刺繍や金彩銀彩はそれぞれ大ベテラン、かつかなりセンスの良いお仕事をしてくださる京刺繍や金彩加工の職人さんによる手仕事です。
それぞれの職人さんとお目にかかる機会を頂戴しました。
良き仕事をされる職人さんにお仕事が集中するので、貴重な時間を頂戴して作業を拝見しました。
センスの良い仕事とは、仕事を引き算できること。
足すことは割にどなたでもできることですが、引き算できる方は、ポリシー、技術力両方共に備わっていることが求められるからです。
今回はコンパクトながら存在感のあるお仕事をしていただきました。
小粒ながらインパクトのある上品な刺繍、金彩銀彩加工です。
◾️素材について
表の生地、裏の生地共に絹100%の素材です。
表の生地は、上質でシンプルな丹後ちりめんの白生地を使用しています。
胴裏(裏の白い生地)も少し重めの生地を採用しているのでシワも残りづらいです。
良い着物だからこそ、裏生地にもこだわります。
◾️生地の地紋
上質な生地で、留袖や訪問着などでも使う生地を採用しました。
色が載る事でより光沢感が際立ち、控えめなシボが艶とも相まってとても美しい、そんな素材感の生地です。
また上質な丹後ちりめん特有なのでシワもさほど目立ちにくい生地でもあります。
◾️仕立てについて
国内手縫いでお仕立てします。
こちらの着物は袷仕立て(裏生地あり)か、単衣仕立てのどちらかに対応可能です。
盛夏にご着用できる着物ではありません。
もし盛夏にお召しになりたいようでしたら、別途生地の手配も可能ですので、お申し付けくださいませ。
お手が長い方、ご身長が高い方も生地を探してご提案することも可能です。
さまざまご不明点ございましたら、お気軽にご相談ください。
納期:3ヶ月半から4ヶ月くらい
今回は、ご注文いただきました方の体型、身長に合わせてお作りしますので、体型により柄行きの位置などが多少変わります。
※紋入れ、ガード加工をご希望の場合は、別途お時間頂戴します。
※納期はタイミングによってご相談させて頂きます。
・ご購入に際してのお願い
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