ここ数日、ネットではアメリカの補正下着ブランドが名称を「KIMONO」として商標登録をしたことが話題になっています。昨日あたりのニュースでは、名称を変更するような話も漏れ伝わってきています。また、ニュースの中では「文化の盗用」についてもあわせて語られる欧米の記事も見かけます。

事の是非についてはさておき。今回のことは、いかに「KIMONO」という言葉が国際語として浸透しているか、そして、今後、日本人が日本文化を世界の文脈の中でどう位置付け直すか考えるのに良いきっかけになったと考えています。

私自身は毎日を着物/和装生活をして十数年。そして数年は半年に一回ほどは欧州を往復していると、「KIMONO」について取り巻く環境が大きく変化して来ていることを感じます。一言で言えば、「KIMONO の SUSHI化」が起こっています。

ちょうど7月1日付公開されました蚕糸・絹業提携支援センター様に寄稿させて頂いた拙文がありますので、紹介させて頂きます。何かのヒントになりましたら幸いです。

日本人が知らない市場創造 〜KIMONOのSUSHI化〜

木下着物研究所 代表 木下勝博(きのしたまさひろ)

 読者の皆様はどのくらいネットで買い物をされるだろうか?
 近年の私にとってネットショッピングは日常生活の一部となっている。amazonや楽天などを活用する頻度は高く、本や家電製品などに限らず、妻から頼まれる調味料やお米などの食材も例外ではない。気に入った調味料が近所のスーパーにないということもあるが、重たい荷物を持ち帰りたくないという理由もある。結果的に量産品は、価格も安くて持ち帰り不要のネットショップとなる。 
 一方、実店舗で買うのは、流通しにくい少量生産のものや作家の一点物、そして、なるべく実物を見て色や質感など確認をしたいこだわりの強いものが多い。
 最近、私が実店舗で買い物をする共通点に気づいた。「今日買わないと間に合わない」「そこでしか買えない」「この人から買いたい」といった“特別な”動機があるのだ。実店舗で商品を手にとり確認しても、後日ネットでも買えるものであれば、その場で購入する確率は下がる。そして、急いでいないとか、接客がピンとこないとか“特別な”動機を阻害するものがあれば、まず購入に至らないわけである。

 ところで、和装業界は1970年代にピークを迎え、その後ずっと右肩下がり、私が着物業界に関わるようになった2000年代始めから考えても市場規模は1/3以下だ。戦後の和装業界の主な成長要因は、団塊世代を中心とした冠婚葬祭のフォーマル需要だと言える。戦後、洋装化が進む中でこの世代の婚礼時期が終わってしまえば、それに代わるボリューム世代が出てこない限り縮小するのは当然であった。
 この団塊世代の高齢化は、消費者としてだけではなく就労人口を減らす結果となる。こうなると高齢者向けの介護事業など特殊な分野を除き、洋服などのファッションはもちろん自動車、携帯電話でさえ出荷台数が頭打ちになる。かつて和装のフォーマル需要が成長しピークを迎え衰退したのと同じことが、他の業界でも時期をずらして起こっているとは言える。いわば今まさに他の業界で起こっていることを和装業界では、40年も早く体験して来たとも言える。
 日本は世界の中で少子高齢化の最先端を行っているわけで、先進諸国、そして中国も避けて通ることはできないと言われている。本格的な少子高齢化社会へという変化を、今の私たちは世界に先んじて経験している。ここで経験値を蓄積し新しい産業やサービスのイノベーションへとつなげることができれば、日本は他の国に提供できない“特別な”動機を提供できる国になる可能性がある。

 筆者は、ほぼ毎日が着物生活になり14年が経過したところだ。毎日着物となると、さすがに正絹ばかりではカバーできない。綿や麻、スーツなどの洋装向けに織られた毛織物なども着物にして着用している。海外にゆくときももちろん着物で飛行機に乗り世界を回る。10年くらい前までは海外で妻の着物姿は「GEISHA(ゲイシャ)」と言われることもあった。昨今は多くの外国人が「KIMONO(キモノ)」という単語を知っている。頻繁に「KIMONO is beautiful!」とお褒め頂く。実はこの原稿も英国で書いており、ここ数日もたくさんの方から話しかけられた。

 数年前より海外で複数のファストファッション・ブランドが「KIMONO」という名前をつけた服を展開している。プリントの花柄などで、袖がゆったりした着物のように打合わせのあるガウンやドレス的なものが多い。日本人から見ると全く着物には見えないが、既に「KIMONO」というスタイルとして認知され流通している。
 私は「KIMONO」のSUSHI化が起こっていると考えている。今、世界中でSUSHI BarやSUSHI Restaurantを見かける。最近はBENTOという海苔巻き弁当のようなものもスーパーで見かけるようになった。10年前にはなかったこの現象は、海外で活躍する寿司職人の努力もあるだろうが、アジア系の人々がSUSHIをファストフードとして広めたものだ。そのことでSUSHIという新しい市場ができ、ロンドンやニューヨークには、銀座の寿司店の何倍もするような超高級寿司店も流行っているという。


[amazon.uk の検索画面より転載]

 今、世界に「KIMONO」という新しい市場が出来つつある。この「KIMONO」は帯をする必要がなく、気軽に上から羽織るだけで誰でも着ることができる。でも、多くの外国人がこの元になったのは日本の着物であることを映画やインターネットを通じて知っている。
 現代日本人がイメージする着物つまりフォーマルとして着る華やかで高価な着物は、日本人でさえ着る機会も少なく、そもそも着られる人も少なくなってしまった。高度成長期以降に和装業界は次の新しい市場を創造することは出来なかった。
 寿司が外国人の手でSHSHIという新しい市場を産んだことで、結果的に日本国内でも創作的な寿司を出す高級レストランが増えるなど新しい動きが見られる。
「KIMONO」は、日本の着物を変えるだろうか。

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