<「喫茶去」/中澤希水>

ここ数日ブログの更新が滞っていました。今日は、いま私に必要な言葉はこの「喫茶去(きっさこ)」なのかなと思い、まずこの写真から始めたいと思います。

「喫茶去」とは、禅語で「お茶を一服いかがですか?」というような意味です。茶掛(茶室の床に掛けられる書画のこと)でもよく使われるので、茶道を嗜まれる方は良くご存知かも知れません。身分の貴賤に関係なく、目の前の客を正面から向き合う大切さを説いた言葉でもあります。

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<会場の様子「”和ヲ服スル”ススメ〜サムライの一服〜」銀座三越7階ジャパンエディションMITATE(2015/11/18-12/8)>

11月18日から12月8日の三週間に渡り、「”和ヲ服スル”ススメ〜サムライの一服〜」に大変多くの方にご来場頂きまして誠にありがとうございました。心から御礼を申し上げます。また、今回の企画にご協力頂きました作家さん、ブランドの皆様、そして、貴重な機会を作って下さいました銀座三越様、関係者の皆様にも感謝申し上げます。まずはこの場を借りて、感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

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<「お太鼓クラッチ」awai(左奥)、「数寄屋クラッチ!」matohu(右手前)>

9月末でこの10年間ゼロから立ち上げて来た着物ブランド「awai」から一線を退き、10月1日より木下着物研究所として新たな一歩を始めたばかりです。春からプロデュース等のお手伝いをさせて頂いている三越伊勢丹様の新しい着物の情報発信地でもある銀座三越という場所にて、今回「”和ヲ服スル”ススメ〜サムライの一服〜」というイベントを開催させて頂きました。

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<matohu堀畑裕之さん、関口真希子さんによるお呈茶>

なぜ着物の世界の人間が「お茶のイベントを?」と思った方も多いのではないでしょうか?

少しその経緯についてお話をしましょう。この十数年着物業界と関わって来て、私自身はひとつの疑問が蓄積してゆくようになりました。着物の裾野を広げるために「awai」ブランドを立ち上げ、毎日着物という生活を10年続けて来ました。10年前に比べ、若い方で着物を着る方も増えて来ました。また、私のように別の業界から着物に関わり始めて商売を始める方もここ数年増えて来ました。つまり、新しい市場が少しずつですが、着実に増えて来ていると実感します。
一方で日頃着物に触れる事がない方とお話をしたときに「着物に興味はあるけれどいつ着たら良いかわからない」というようなご意見も相変わらず聞きます。つまり、まだまだ着物は一般の方の生活にとって遠い存在であるということです。

市場全体からは小さな存在かも知れませんが、新しい市場を創造することに何か少しは貢献できたのではないかとは思ってましたが、実は今までの延長線上で続けて行くことに疑問を感じていました。なぜならば、急速に進む染織や工芸産地の高齢化と新しい市場の成長が全く追いつかないからです。

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<茶入/二階堂明弘>

私と初めて会った方の多くは、毎日着物生活の私が家業で代々着物の世界にいる人間のように思います。伝統的な商売が家業でもなく特に日本文化を大切にするような家庭でなかったこともありませんでした。むしろ、逆で日本文化からとても遠い人間だったとも言えます。十数年前まではIT業界ですから、和ということを意識することは全くありませんでした。

そんな私が本格的に和を意識するようになったは、この十数年です。着物を着て生活をすれば、自ずと日本の気候風土を感じ、日本人の”当り前の生活”がいかに意味のあることなのかを感じる日々です。洋服や靴の生活と異なり、着物だと現代生活が不便なことが少なからずあります。結果的にいまでは玄関からお手洗いに至るまで引き戸しかない和風の住まいで生活をしています。

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<四方釜/内田繁、書/中澤希水>

こういう生活をしていると友人知人は和の分野の方がどんどん増えて来ます。お互いの悩みや課題は共通しており、短期的な視野ではなく、長期的にどう和の大切さを伝えてゆくのか、日々そんな意見交換をしながら仲間を増やしてゆくのが、ライフワークのようになってきています。
自身が着物生活で和を語ろうとすれば、自然と日本の伝統文化を知りたくなり、様々な伝統文化を触れるうちにその魅力に引き込まれて行った十数年だったと言えると思います。

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<武者小路千家 傳田京子さんによるお呈茶>

日本の伝統文化と言った時に茶道は興味深い分野で、そこには和の衣食住が全て含まれています。私達のような着物を仕事をする人間にとって、茶道は避けて通れない道でもあります。私の場合は、最初にお世話になった茶道の師匠が体調を崩されお稽古ができなくなり、その後亡くなられてしまったため、一時期、流浪の旅のような時期がありました。

茶道に限らず、習い事の難しさは先生ですよね。誰を師匠として仰ぐかということはとても大切なことです。今思えば、その流浪の時期が良かったのだと思います。その後にご縁を頂いた師匠のところで、様々な経験をさせて頂き、単なるお稽古事としてではなく、自分の生活に少しずつお茶を取り入れてゆけるようになってきた思います。

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<ひとくち豆皿/木下着物研究所×蔦屋漆器店>

今回の企画は、銀座三越さんからのご要望もあり、あえて茶道の世界のプロではない「着物の世界の木下勝博が見立てるお茶の生活」というご提案をさせて頂きました。
茶道に限らず、日本文化の多くは戦後とても難しく必要以上に高尚なものになってしまっています。着物も全く同じ状況です。そんな状況の中で私のようなものが、(お稽古としての茶道ではなく)”お茶のある生活”を提案することで、日本文化、結果的に着物にも関心を持って頂ければこれ以上に嬉しい事はありません。

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<茶箱/緒方慎一郎>

期間中に外国人のお客様とたくさんお話をさせて頂き、今回、書やお茶碗などもお買上下さった方は海外の割合は決して少なくありませんでした。
そして、お求め頂いた海外の方々に共通するのは、生活にお茶を取り入れている方々だったということでした。それは「茶道」というお稽古ではなく、生活の中に「一服」としてのお茶という意味です。

今回の私のミタテは、決して海外の方が見て分かりやすいような”見せスジ”を入れるようなことはしませんでした。そんな企画に海外の方が強い関心を持ってくださったことは意外でした。また、また、日本人以上に生活に「一服」を取り入れている海外の方々がいるということも意外であったと同時に、私の中の迷いが吹っ切れたきっけけにもなりました。

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<「一期一会」/中澤希水>

今回の企画は様々な方々とのご縁がなければできない企画でした。これも着物の世界に関わかるようになってのことです。
最後になりましたが、今回の企画にご協力頂いた全ての皆様、ご来場下さった皆様、そして、残念ながらご来場叶わずも様々なカタチで応援下さった多くの皆様に心から御礼申し上げます。ありがとうございました。

平成二十七年十二月十一日
【旧暦十一月一日/大安(辛酉)】

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